10/12/2009

最近のサウンド技術(Time Exp/Comp)

JTPAのギークサロンに御来場いただいた皆様、ありがとうございました。

テンポのプラマイ10%が、商用クオリティで許されるクオリティかどうか半信半疑の方も多かったので、デモをアップしておきます。


サウンド・プロセッシング技術は年々向上しており、音程を保ったまま時間を長くしたり(Time Expansion)、短くしたりする (TIme Compression)技術は現在の音楽制作、映像制作でかかせないものになっています。

ギークサロンでお話したように、ゲーム開発、映像関連では音楽制作は全体の行程の中で後ろになりがちです。臨場感を出したり、演出の効果を最大限にするためにはどうしてもタイミングを合わせる必要があるため、何も決まってない状態から音を作るのは難しいという理由があります。

またスケジュールの都合上、絵が出てきてからサウンドをすべて仕上げるまでの期間もそれほど余裕が無い場合がほとんどです。声優のセリフや、ボーカル、ギター、ドラム、サックス、ピアノ等々、プロの生演奏を入れたい場合はアーティストの予定を調整したり、収録スタジオをブッキングしたりと、一回収録するだけでもなかなか手間がかかります。

そこへ「ごめん、尺(長さ)変わっちゃったんだよねー」
と言われることも頻繁にあります。

また、過去の例でこんなこともありました。ある海外アーティストのアルバムのマスタリング作業中、収録する曲のうち1曲だけ、どうしても他の曲とのテンポのバランスがとれないから、1曲丸ごとテンポ変更したいとディレクターが言い出しましたが、もしそれを実現しようとすると海外のレーベルと連絡をとり、作家、アーティストとテンポを変更するため収録をやりなおす交渉をしたり、その再制作の期間を調整したりする必要があり、なかなか時間がかかるものなのです。しかも、最近のマスタリング作業は発売1ヶ月前にギリギリ行われるなんてのはザラなので、もしその1曲のテンポを変更するとしたら確実に発売延期=レコード会社的にはあってはならない事故になります。

そこで、私が担当した際に、一般的に世の中に出すクオリティと、そのアルバムの他の収録曲との音質バランスを考え、「これぐらいまでなら変更できる」とマスタリング作業中に2mix(最終的に1曲になっているデータ)に対して、テンポ修正、その修正でアラが出たところを手作業で細かく修正し、事なきを得たという苦労話がありました。

このように、現代の音楽制作ではかかせなくなっているテンポ変更のサウンドプロセッシング+修正を施したテストデータをお聞きください。(テストに使用している曲は以前私がプロデュースしたアーティストの曲で、公開の都合上 mp3-Stereo256kbps-Mono128kbpsに圧縮してあります。また、再生にはQuickTime が必要です。)

 ボーカル(オリジナル・ピッチ)

普通はテンポを変更すると、カセットテープ(古っ!)のように音程も
 このように上がってしまったり、

 このように下がってしまいます。


それをうまく処理すると、以下のようになります。
 ボーカル(テンポだけ10%速くした版)


 ボーカル(テンポだけ10%遅くした版)


次に、Time Expansionの影響をわかりやすくするため、極端に倍の長さ(テンポだけ50%遅くした版)にしてみました。

何も考えずに、その辺のありきたりな方法で普通に処理すると
 このようにロボットボイスみたいな感じになってしまいますが、


上のプラマイ10%の例と同じようにうまく処理すると
 こんな感じになり

前者よりは、かなりマシだと思います。さすがに2倍に引き延ばしてるので無理がありますが(笑)

さすがに楽曲の2mixに対してプラマイ10%のTime Comp/Expはキツいのですが、あえて実験ということでデータをのせておきます。

 オリジナル・ピッチ *1

 テンポだけ10%アップ

 テンポだけ10%ダウン


いかがでしょうか。ボーカルのみなら、おそらく大半の方が音質の低下は許容範囲に収まっていると感じていただけたと思います。

私が過去手がけたリミックス作品で、最大18%程度テンポを下げたものもありました。本来なら歌い直ししてもらいたかったのですが、スケジュールの都合上、ボーカルのみサウンドプロセッシングで切り抜けました。

原曲は現代風のアップテンポw な感じですが、私は80年代のサウンドを再現しようとBPM(Beat Per Minute)を157から130まで落としました。

 原曲(BPM = 157)*2

 リミックス(BPM = 130)*3



これはほんの一例ですが、また機会があれば様々なサウンド技術について、説明したいと思います。


* このポストに含まれる楽曲およびサウンドデータの著作権は、このブログのCreativeCommonsライセンスとは独立して管理されておりますので転載はご遠慮ください。

*1 (p) style-jam
*2 (p) delta srl
*3 (p) avex entertainment inc.




続きを読む...